吸血鬼の手帖

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† 屍鬼3

作者:小野不由美
発売:新潮社 新潮文庫
初版:2002年03月01日
価格:667
頁数:503
 逃げ場のない恐怖の底に堕ちた村で、深夜、何者かの影が蠢き始めていた。
 窓の外に佇む気配、往来の途絶えた村道で新たに営業し始めた葬儀社、そして、人気のない廃屋から漏れる仄暗い灯り……。
 その謎に気付いた者たちの背後に伸びる白い手。明らかになる「屍鬼」の正体。
 樅の木に囲まれた墓場で月光が照らし出した、顔を背けんばかりの新事実とは――。
 もう止まらない、驚愕の第三巻。
 3巻冒頭にきてようやく「屍鬼」が何であるのか明らかになり、一方で村人が雪崩れるように死に始めます。
 明らかになったとはいえ、あくまでも「「屍鬼だ」と気付いた人がいる」というだけであって、大部分の村人は死者の多さを訝しがる程度。正体のわからない不安に怯え始めたくらい。
 3巻に入ると明らかに読む速度が上がります。初めて読んだ時もそうでした。再読の今回も。
 きっと他の人も同じじゃないかな?

 それまで遠回し遠回しにしか書かれなかったものがここで一気に溢れ出します。民間伝承の薀蓄もどばーっと。
 村人の異常な死が「起き上がり(=屍鬼)」気付いた面子が取る行動も、吸血鬼伝説、吸血鬼作品に沿ったもので、思わずニヤニヤできます。

 そんなこんなで一気に吸血鬼色が濃くなりますが、それと同時に『屍鬼』と『呪われた町』の差が見えてきます。「屍鬼側の生活」「屍鬼への同情」「屍鬼の苦悩」。
 キングの描く吸血鬼が明らかな「悪」であり、その犠牲者もまた「悪に転ずる」のに対して、こちらの屍鬼はとても人間臭い。
 生前通り傲慢な奴もいれば、死から起き上がり村人を糧にする自分を責めて狂気に陥るものもいる。
 その屍鬼側からの心情描写もしっかりある。
 キングの方は死ぬ直前までの描写はあっても、死んだ後の詳しい描写はほとんどありません。たまにあっても
「なってみたら意外といいもんだよ! お前もこっちきちゃえよHAHAHA!」
 みたいなノリで、そこに後悔やら悩みやらはあまり感じられません。

 死から蘇ったものは果たしてそれだけで本当に「悪」なのか?

 という事を考えるあたりが、キリスト教圏と決定的な違いなのかも。

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